檜のお椀

檜のお椀

人間国宝だった松田権六先生の

『古いお椀の木地には檜が使われていたが、現在では欅が最上等品として多く流通している』

という言葉に接し、今こそ、檜の汁椀を作るべきだと考えました。檜は軽く、保温性に適し、他の木地より漆をよく吸い込み、木地固めから最後の仕上げまで漆で塗り上げることにより、 軽やかで、ぬくもりのある、豊かさを感じる椀 になりました。

四季椀と名付けられた檜の椀

 たとえば、あつあつの味噌汁を磁器の碗に装ったとします。手に持ってごらんなさい。熱くて思わず取り落としそうになるはず。 だからこそ、コーヒーカップには、持ち手がついているというわけ。磁器の碗にはスプーンが必要です。そもそも汁物を飲むのに器に直接口をつけるのは、日本だけじゃないでしょうか。

 一方、天然木には、熱伝導率が低いため熱しにくくて冷めにくいという性質があります。これがそのまま、漆器の特長なんですね。つまり漆の椀は、軽くて持ちやすく熱を伝えにくいので、仮に掌ですっぽり包んでも熱くありません。また、唇をつけたときの感触のやさしさは、よくご存知のとおり。この合理性は、おどろくばかりです。

 椀の木地としては欅が主流ですが、かつては、檜がもっとも上等とされていたのだとか。檜の木地は、漆の吸い込みがよく何回でも塗り重ねられるので、丈夫でより美しく仕上がるそうです。しかし、その分、技術を求められる上に高価でもあったので、現在では檜の椀木地がほとんど見られなくなってしまったといいます。

 塗師は福井県鯖江市在住の佐川泰正さん。ていねいなよい仕事をすることで定評のある方です。

 とりわけ、佐川さんのご苦労は一方ならぬものだったでしょう。木地を選ぶことから携わり、製作に当たっては、関係資料を探したり、博物館や美術館に足を運んで名品を観察するなどを経て着手。こうして出来上がったのが右の椀です。深みのある朱漆の色合い、ふっくりと素直な丸み……申し分ありません。とりわけ、縁にぐるりとつけられた幅一センチほどの轆轤目が印象的。これ一つで、椀に斬新な雰囲気が漂ようのですからふしぎです。
またおどろくのは、その軽さ。おおげさではなく、風が吹いたら飛んでいきそうですが、これも檜の特長の一つなのだそうです。

 まずは、洋風の汁ものといきましょう。カリフラワーは少量の小麦粉と酢を加えた湯で純白に茹で、玉葱の微塵切りはバターソテー。カリフラワーと玉葱をミキサーにかけて鍋に移し、牛乳と生クリームで延ばして塩で調味。椀に装い、炙って香りを引き出した蕗の薹を散らします。


カリフラワーのクリームスープ
品名 四季椀
塗師 佐川 泰正(福井県)
※漆宝堂オリジナル
価格 18,000円(1客)
サイズ 11.7φ×7h(cm)
朱と黒

 では、熱いうちにーーなんとまぁ、唇の当たり具合のいいことといったら。スープもいっそうおいしく感じられます。これも件の轆轤目の功績。またこれは、指がぴったり納まって安定するという 機能性にも繋がっていたのでした。単なる飾りじゃなかったというわけです。

 この椀に”浅蜊と分葱の饅”や、グリンピースを炊き込んだ”翡翠ご飯”を盛って、少しも違和感がないことご覧のとおりです。おそらく、洋風の器と合わせてもしっくりくるでしょう。

“四季の味”H17年春号より

                    
浅蜊と分葱の饅                 翡翠ご飯
  • 作家:佐川泰正
  • 名付けの由来:これは例えば味噌汁椀として”四季折々の旬の具で豊かな食卓を”という想いで、命名しました。



紅茶盆

 作り手山本英明さんは「“もの”への想いが、品質を高める。」
「見た目をキレイキレイに塗ろうと思うたらいくらでもできるけど
そんな器はこき使われて耐える器にはならん…。」
と 言い切る職人中の職人です。
英明さんの器造りは常に「日常に使える器」を意識しています。
この紅茶盆も重ねることを考えて、縁を斜めにし、そして隅も丸める事により、拭きとりやすくなっています。
表面は、布目仕上げですので、キズなど気にせず使い込んでいただくと、漆ならではの味わいある色になります。
販売当初より意匠の変更はありませんので、既にお使いいただいているお客様が追加される場合も安心です。


写真提供「四季の味」

品名 紅茶盆
塗師 山本 英明(福井県)
価格 15,000円(1枚)
サイズ 30×20×1.5(cm)
溜(布目仕上げ)
 

  漆器というと、なんとなく身構えてしまうのが、おおかたの反応かもしれません。 かくいう私自身もしかりでした。
どうしても晴れの器として、ある種の緊張感を伴うからです。
ところが、何年か前に、その先入観を見事に覆してくれた漆器に出合ったのです。
それこそが、山本英明さんの手になる“紅茶盆”でした。
現代生活に適った機能性と、伝統美を併せ持つ理想の形は、 いうなれば漆器の入門編であり、同時に上級編でもあります。
なぜなら、使い手それぞれのイマジネーションを喚起してくれるからです。
ティータイムによし、八寸を盛ってもまた結構でしょう。 使い方は自由自在-- さて、あなたなら?

四季の味元編集長:八巻元子